和光小学校幼稚園校園長ブログ「子どものなる木」自分の前に立ちはだかる壁に立ち向かうエネルギー ~4年生、6年生劇の会・青年劇場「行きたい場所をどうぞ」~


4年生、6年生の劇の会が終わり、いよいよ今年度も残すところ3週間となりました。今年も舞台の上で演じる子どもたち、音響、照明を担当する子どもたちの姿に何度も胸が熱くなりました。

4-1は「小僧と鬼ばば」。「三枚のおふだ」と題して上演されることも多く、子どもたちはよく知っている昔話です。小僧の役を希望する3人が場面ごとに入れ替わり、それぞれに味のある演技を見せてくれました。どうしてもウサギ役がやりたいという子どものために担任が書き加えた場面も。

4-2は「桃太郎物語」。川に流れてきたモモから生まれた桃太郎ではなく、強くない桃太郎がイヌ、サル、キジたちと共に小鬼たちに捕まってしまいます。川に落とされてしまった桃太郎を救い出す強いおばあさんなど、子どもたちは役になりきって演じることを楽しんでいました。

6-1は「人形館」。友だちにいじめられたり大人への反発を感じたりしている中学生たちが、ある街の人形館で出会います。夜の人形館では人形たちが息を吹き返し、現実から逃げて“自由”を手に入れようと中学生たちを誘うのですが・・・。とてもそのようなセリフを言いそうにない子どもが役にチャレンジしている姿に目を見張る場面がいくつかありました。

6-2は「ALICE~世界がアリスの夢だったら~」。『不思議の国のアリス』の世界を描きながら、アリス、女王、いかれ帽子屋など、実は元の世界では・・・という設定。植えられている花たちがそれぞれに現実世界で受けてきた辛い出来事を淡々と語る場面に、子どもたちを取り巻く状況の厳しさを考えさせられました。

6年生は演出、照明、音響、小道具、大道具など舞台作りのスタッフの役割も子どもたちがこなしています。


30年以上前の和光小学校パンフレットに、つぎはぎの着物を着てわらじを履いた子どもが思いっきり舌を出しているお芝居の写真が載っています。斎藤隆介作『ベロ出しチョンマ』の舞台です。

長年、和光小学校ではクラスで劇づくりに取り組んできました。その頃1年生、2年生はフロアー劇をおうちの人に観てもらい、3年生以上は体育館の舞台で本格的な照明装置、様々な音響設備を使ってのお芝居に挑戦しました。

中高学年劇の会は、3年から6年各学年3クラス、合計12クラスが2日間にわたっての上演でした。

この写真に写っていたのは当時5年生だった大谷賢治郎さんです。

私が和光幼稚園から小学校に異動した時には、大谷さんはもう卒業していましたが、このときの舞台は長く語り伝えられるほどの名演技だったとか。

大谷さんは、和光中学、和光高校でも芝居づくりや表現活動などで活躍し、その後、本格的に演劇を学ぶためサンフランシスコ州立大学に進学します。2017年から2021年まではアシテジ国際児童青少年舞台芸術協会の世界理事を務め、各国を回りながら青少年の舞台芸術発展のために力を注いでこられました。

4年生6年生の劇の余韻が覚めやらぬ中、大谷賢治郎さんが演出を務める青年劇場の「行きたい場所をどうぞ」の舞台を観に行きました。

駅で道案内をするロボットの夕凪は、乗客、用務員、駅長、散歩中の老人などいろいろな人に声をかけられます。すぐに検索して案内ができる一方で、“道案内”とは関係のないことには「わかりません」との返答。でもAIロボットの夕凪は学習を重ね進化していきます。

ある日、この街に引っ越してきたばかりのひかりという女子高生がやってきて、「行きたい場所をどうぞ」という夕凪に、「ネラ」へ行きたいと言います。データにもなく、検索しても出てこないその場所はいったいどこにあるのか・・・。夕凪とひかりの“行きたい場所”探しの旅が始まります。

旅の途中、ひかりは母親の言うように学校へ通い、勉強し、ルールを外れることのなかった自分自身のことを語りながら、自分はどこへ行きたいのだろう、何をしたいのだろうと模索します。そんなひかりに淡々と付き合うロボットの夕凪の姿が、ひかりには安心感を与えているのでしょう。

この作品の作者、瀬戸山美咲さんは、「自分の人生を選んで決めていくことは、地図のない状態で旅に出るようなことです。それを楽しめる人もいますが、不安だという人も多いと思います。でも、誰かに用意された地図に沿って旅をするよりも、自分で旅をしながら地図を作っていく方が、何かを発見したときの喜びは大きいです。」と語っています。

自分はどこへ行きたいのだろう、何をしたいのだろう、と悩み苦しむひかりに、現実の世界から逃げ出した「人形館」を訪れた中学生や「アリス」を演じた6年生の姿が重なります。

でも、ひかりは自分の道を切り開こうと決意して日常の生活に戻り、アリスも中学生も現実世界に戻ってきました。そこには自分たちの前に立ちはだかる壁に向かっていこうというエネルギーが満ちあふれていました。

演出をした大谷賢治郎さんは、長いコロナ禍で“諦める”ことに慣れてしまった若者たちに思いを馳せます。そして格差社会となってしまった日本で諦めてしまっている大人たちも多いのではないか、と警鐘を鳴らします。「今、この日本の社会では大人が絶望し、若者をその絶望に巻きこもうとしているように思えてならない。“自分たちも諦めるから、君たちもあきらめろ”と絶望へ向けて背中を押しているとさえ思えてくる。一大人として思う、若者の背中を押すのは絶望へではなく、希望へでありたいと。」

自分たちの前に立ちはだかる壁に向かい乗り越えようとするエネルギーを子どもたちは蓄えています。子どもたちに希望に満ちあふれた未来を手渡さなければならない私たち大人は、諦めるわけにはいきません。

和光で学ぶ子どもたち、学んできた大谷さんがつくりだす演劇は、希望を見いだそうとする子どもたちの眼差しと一歩ずつ前に進んでいこうとする力を観ている私たちに確かに伝え、勇気を与えてくれました。


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